日  常
―― 昼 ――




大の苦手な理科の授業中、ひすいの許に後ろから手紙が回って来た。 差出人はクラスで1番仲の良い宮下亜弥子みやした あやこである。 内容は放課後の寄り道の相談で、感じのいい紅茶の専門店を見つけたので一緒に行かないか、という事だった。 紅茶という文字に反応したひすいは、退屈していた事も手伝って早速返事を書き始める。 亜弥子も退屈していたのか、その後手紙交換は授業が終わる迄続いた。

昼休み、仲好しグループ4人でいつもの芝生の上でお昼を広げる。
この時期は日差しがとても暖かく気持ちがいいのだが、あまり知られていないらしく人気が少ない。4人にとって秘密の話をするには絶好の場所であった。 やはり今日もお弁当を広げての恋愛話に花が咲く。
「そういえば聞いてよ!昨日、游くんってばまたデートすっぽかしたんだよぉ」
このところ時々急に約束を破られる事が多いと言っていた和泉千里いずみ ちさとの声は怒っているものの、表情は不安そうである。
「また?今度はなんで?」
あまりごたごたには関わりたがらない柚木香依ゆずき かえが少し面倒そうに訊ねる。
「わかんない・・・。携帯繋がんなかったし、家に電話しても帰ってないって言われたし」
「電話こなかったの?」
香依と違い亜弥子の声は心配そうで、ひすいも少し表情を曇らせている。
「うん・・・」
「帰ったの遅くなったから遠慮したとかじゃない?」
「かなぁ。だといいんだけど・・・」
「絶対そうだって。今日学校行ってみたら?」
「・・・・うん、そうする」
「元気だしなよ〜。香依なんか振られたばっかりなのに元気じゃない」
「あ、あたし、新しい人みつかったよ」
「「「もう?!」」」
香依の言葉に驚いた3人の声が重なる。
「あんた変わり早すぎない?」
呆れた様に言われ、香依は不思議そうに亜弥子を見る。
「そっかなぁ?」
「絶対早いよ」
この辺りはいつも3人と香依の基準と感覚の差が出るところである。
「・・・・みんな、いいなぁ」
ずっと3人の遣り取りを黙って聞いていたひすいがボソッと呟く。
「なぁに?その気になれば時ちゃんならすぐ彼氏できるでしょ?」
「そんなことないもん・・・」
「あ〜、ダメダメ!ひーは理想が高すぎるから」
「ああ、そっか。そりゃ、あんなお兄ちゃんが2人もいちゃねぇ」
「お兄たち?」
「そうそう。カッコいいよねぇ」
「かっこいい〜??あれが?」
「あれって、あんた・・・。全然タイプ違うけど、2人ともカッコいいよねぇ!」
香依の言葉に亜弥子と千里が頷く。
(あんないつっもグウタラしてるのと意地悪ばっかり言うののどこがいいんやろ・・・)
訝しげな顔をするひすいに3人は呆れた顔をする。
「ずっと一緒にいるから基準がおかしいんじゃない?やっぱり」
結果、すっかり3人の標的となったひすいは少し剥れながら弁当を空にする事になった。

「ね、何にする?」
放課後、約束通り亜弥子に連れられて専門店を訪れた。
「うん〜・・・・初めてのとこやしストレートかなぁ。どれにしよ・・・」
ひすいはメニューと睨めっこし、うんうん唸っている。逆に亜弥子はメニューに一通り目を通すと素早く決めた様子である。
「あたしウヴァのミルクティーにしよ♪」
「・・・・あたしはやっぱりオリジナルかなぁ」
「お菓子は?スコーン?」
「うん!」
「じゃ、決まりね!すみませ〜ん」
亜弥子はウエイトレスに声を掛け、2人の注文を済ませる。
「そういえば、お昼休み言ってなかったけど、あやのとこはどうなん?」
「うん?うまくいってるよ。朝晩ほとんど毎日会ってるしねぇ」
「そっかぁ、隣同士だもんねぇ。いいなぁ、幼馴染かぁ・・・」
「ひー、こっち来て5年だっけ?」
「うん、そう。向こうでもずっと引越しばっかりやったんよねぇ。でも、もうないらしいからええねんけど」
「あ、だから家建てたんだ」
「うん」
「にしても、言葉全然変わんないねぇ。もっと移ってもよさそうなのに」
そんな話をしていると、おまたせしました、と紅茶とスコーンが運ばれて来た。話を中断して、2人紅茶に口を付ける。
「「おいしい・・・」」
2人の声が重なる。スコーンにも手を伸ばしてみると、今まで行った事のあるどこの専門店のものよりも紅茶に合うものになっていた。
「ここ、毎日来たい!」
「あたしも!でもお金ないから無理だよねぇ。来れても週1ってとこかな・・・」
「やねぇ。残念!」
すっかりそこが気に入ってしまった2人は紅茶の話で盛り上がる。そしてそれはそのうち学校やテレビなどの話に逸れていった。

「あ、やだ!もう6時過ぎてるよ」
「え〜!早う帰らんと!門限7時だよ〜、うち」
亜弥子の言葉にひすいは大慌てで席を立つ。
「ひーのとこ、そういうの結構うるさいもんねぇ」
「ちゃんとした理由あるときはいいんやけどねぇ」
2人は別々に会計を済ませ急ぎ足で駅へ向かう。一緒に電車に乗り同じ駅で降りる。そこからひすいは歩きに、亜弥子は少し家が遠い為自転車になる。
「ばいば〜い。また明日!」
まだ少し明るい空の下、2人は手を振り合った。何気ない、いつもの日常。





to be continued



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